出張の代償と報酬

今週のお題「最近あったちょっといいこと」


昨年11月、今の職場内で異動をした。

それから約1年、泥のように労働し、疲れ、苦悩の日々を過ごした。

残業手当は出るが、毎晩の酒は増える。ストレスと引き換えに金を受け取るような、

人間の尊厳とは何だろうとさえ考えてしまう日もざらにあった。


そんな中でもプライベートはそこそこに充実していて、(それが無かったらと思うとなかなかにゾッとするのだが)

なんとか平日を乗り越えてきた。


前置きが長くなったが、そんな過酷な日々が続くなかある日、

他拠点への長期出張が急遽、決まった。


場所は100キロほど離れた他県、期間は二ヵ月間。

移動手段は社用車。ペーパードライバーの私。


そこからは、あっという間であった。


出張を言い渡されたのが9月末、

10月中旬に私の運転する社用車で他拠点へ挨拶に向かう。そこで初めて自分一人で長時間運転した。

同行した営業に、運転中めちゃくちゃに言われる。今思えば、アドバイスは的確であったが言い方は適切ではなかったと思う。

こいつのこと、これからも尊敬はしても信頼は決してしないであろう。


心をバキバキに折られた私は、営業に「社用車で出張に出ることについて」改めて大丈夫なのか詰められた際、「自信が無い」と車通勤を辞退する旨を伝える。


新幹線という手段もあったらしいが、一日考えた結果、

車に乗る決意を再びすることに。


当時なぜビビりたおしていた私が、一晩で車に乗る決意が出来たのか、今でも不思議なところであるが、(営業にも、どういった心情の変化なのかをまた同じ調子で詰められたくらい)


「車に乗れるようになる」ということは、仕事の面だけでなく、自分自身のスキルアップになるし、メリットであると考えたのだ。

あとあの営業が隣に居なければ、うるさくないし。


そうして晴れて、10月末より、人生初の一人運転での長期出張の幕開けとなったのである。


今週のお題「最近あったちょっといいこと」


ここで、ようやくお題とこじつけて話が出来るのだが、

出張で得られたことの大部分は、「多少の運転技術が身についた事」だろうと考える。


社会人になってはや7年。

運転免許を取得して4年。

車に乗る機会といえば、2、3ヵ月に一度ほど、恋人と借りるレンタカーで1時間ほど運転し、ナビされたまま車を操作するだけ。


自分一人では道も分からないし、車線変更も、駐車すら出来ないトンデモペーパードライバーだったのだ。

(もっと言うと、ワイパーの動かし方、空調の点け方、窓の開け方等車の中の操作も分からなかった。)


そんな私が、たった一人で、高速に乗り、ホテルの駐車場に車を停め、

平日は片道15分の会社に通勤し、週末また高速道路を経由して自宅を目指し、コインパーキングに車を停める。


おそらく、この成長ぶりは私自身にしか分からない感動だと思う。

「ちょっといいこと」どころではない。

「ここ一年での劇的進化」といってもいい。


一人での運転前夜、「自分はたぶん死ぬのだろう」と、家族や大切な人へ遺書を残そうとしたくらい、運転に自信が無かった。

なかば「だめならだめで」という吹っ切れた気もちもあったのだろう。


国内では毎日のように車の事故のニュースが絶えない。

今生きていることは、奇跡と同じくらい有り難いことなのだろう。


車を運転して、高速道路を使って行き帰りして、ガソリンスタンドに寄ったりして、最後は駐車場に停める。


多くの人たちが日々の中でやっていることを今自分が同じようにしてみて、世界がより広く見えた気がする。


仕事で思いがけずに得た運転技術、自分の人生において、とても貴重な経験になったと思う。


出張も残り4週を切った。事故なく、引き続き安全に技術を磨いていくつもりだ。

会社に週明け提出の、

交通安全標語を考えながら。